2008.3.11

第77話|愛されていた土地を買う、ということ。

Miori
 

夫の話は続きます。ライフワークとなっている植物研究のこと、子供たちを育てる環境についてのこと、
さらにはいつかこの地に生活の拠点をうつして地域活性にも一役買いたいのだということ・・・・・


売主さんは、うむ、うむと真剣に聞いてくださいました。
「ここはねえ、もうすっかり若いヒトたちがいなくなってしまって。残っているのは年寄りばかりですわな。
おたくみたいな若い家族が来てくれるとね、きっと部落のみんなも喜ぶと思うんですよ。
ただね、本当に土地が広いから、草ぼうぼうにしないようにするだけでもねえあなた、大変ですよ。
わたしも今は、ここに毎日住んでいるわけじゃあないから、知り合いや親戚に手伝ってもらって
何とか隣近所に迷惑をかけないようにはしてきたけど・・・・それもしんどくなっちゃてねえ、
思い切って売りに出すことにしたくらいでしてね。


何しろ先祖代々守ってきた土地なもんでね、やっぱりほっぽらかしにするようなヒトには売るなって、
わたしのまわりも言うんですよ。
今までもここを売りに出してから、何人か欲しいというヒトが訪ねてきてねえ、それでも結局、
いろいろと相手さんとの条件が折り合わなくてやめたんですよ。
本当に気に入ってくれるヒトにだったら、渡してもいいかなと、思ってはいるんですけどねえ」


なるほど・・・・わたしには、この売主さんの「売りたいけれど売りたくない」という複雑な気持ちが
痛いほど伝わってきました。

単純に売り渋っているというだけではなさそうです。自分が見初めて心から納得した相手以外には、
お金が折り合っても渡したくないのかもしれない。
「草刈りの大変さは、地元の方々から伺って充分覚悟しています。不慣れながらもがんばります。
足りない部分については、不動産屋さんのお知り合いの地元の方からご協力いただけるように
すでにお願いしていますが、とにかくいろいろ教えていただきながらやっていきたいな、と」


「そうですねー、徐々に覚えれば、誰しもできることなんですがね。体力さえあれば」
「ちなみに、草刈りが大変なのは、夏ですか?」わたしは恐る恐る口を挟みました。
「いやーまあー、草は3月くらいから10月くらいまで生えるなあ。夏は特にねえ、のびるんですよ。
ほっとけばあっという間に藪になって、家なんか埋まっちゃうでしょうねえ」


・・・・実際、草刈りひとつやったことのないわたしたち。
こうやって意欲を示すコトバを連ねるだけで、果たしてちゃんと信頼してもらえるのだろうか?
そして本当に、この広大な土地を将来にわたって維持管理していけるのだろうか?
そんな一抹の不安を吹き飛ばし、自分を奮い立たせるように、わたしはちょっと場違いな大きな声で
「多少の苦労は楽しく乗り越えようっていう覚悟はあります。
今は知識も経験もないですけど、やる気と体力だけはありますから!」と言い、ない胸を張りました。
(・・・・まったく、このわたしが啖呵切るなんてなあ。
よほどこの土地に惚れちまったってことです。今さらですが)


結果的にわたしたちは、何とか売主さんのおメガネに適ったようでした。ほっ。
また、農地部分の本登記までは協力していただくことも、約束してもらえました。
ただやはり金銭面での折衝はシビアで、こちらが提示した支払いプランをのんでもらうには至らず。
何もかも思うようにいくわけではありません、はい。


それでも、今回売主さんと直接逢って話が出来たこと、これは大きな収穫でした。
売主さんの人柄を知るということもさることながら、ずうっとこの土地を守ってきた人々の愛情のような
ものを感じることができ、その愛情を受けてこちらも今まで以上に、この土地への思いが固まりました。
はじめ、公図の地目の中に「墳墓」という項目があり、ひぇ〜ここに売主さんの先祖が眠っていたなんて
桑原桑原・・・と思っていたのですが、売主さんの顔が見えて人間的なつながりを持ったあととなっては
「こんな見晴らしのいい高台に家をつくって、この景色を見ながら生活して、土地を荒らさず守ってきた
ヒトたちがいるんだな。そのヒトたちががっかりしないように、わたしたちもがんばらなきゃなあ・・・・」
なんて敬虔な気持ちになっちゃったりするのですから不思議です。

このブログについて
 

平日は多忙なサラリーマン、だが休みとなると植物栽培マニアと化す夫。膨大な数の珍植物が自宅からあふれ置き場所に困り果てた挙げ句、夫婦の選ぶ道は「田舎で地主になる!」。植物と人間にとって理想の土地を探し求めることに決して妥協しない彼らの「とんでもない紆余曲折」を、赤裸々に綴ったブログ。
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著者紹介
 

Miori
子供や夫や動物を育てるのが趣味。カフェの窓際でのんびり読書する時間と、家でのんびり造顔マッサージする時間が持てれば幸せ。と、ささやかに都心のインドア生活を楽しんできた主婦が、突如「田舎の土地をゲット」するために髪を振り乱して奔走しはじめる。結婚相手によって、人生が激変することを実感中・・・

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