2009.12.8

 

蟹を待つ人

馬場正尊
 

11月になり、房総にも少しずつ、冬の足音が聞こえ始めた。
ただ今日は抜けるような青空で、昼間はTシャツでも過ごせる気温。

房総R不動産を千葉テレビが取材するということで、
僕は横から眺めているだけだが、ちょとだけ撮影につきあってみた。

一宮の海岸線。
撮影よりも気になるおじさんがいた。

ただ、海を見てたたずんでいる。
しかし落ち込んでいるでもなく、思索にふけっているわけでもなく、
目には、何らかの目的が宿っている。
向こう側では、ワイワイ撮影が進んでいることなど、まったく関係ない様子。

「何をしているんですか?」
と尋ねて見たら。
「蟹を獲っている」
という答え。

そばに置いてあったバケツを見せてくれた。

確かに。
10センチちょっとの蟹がうじゃうじゃと入っている。
「今日は海が荒れているからダメだ。いいときは100匹くらい獲れる」
100匹!
みそ汁にしたらうまいらしい。

「どうやって獲っているんですか?」
と尋ねてみた。というのは、先ほどの写真のように、
おじさんはたたずんでいるだけで、何もしていないように見えたからだ。

「網を投げている」
よく見ると、おじさんから海に向かって、細い糸が伸びている。
地引き網らしい。といっても、遠浅の海で、おじさん一人、たいした距離に網は投げられない。
「そのへんでとれる」と、目の前を指差した。手で投げれる距離など5〜6mでしかない。

え?
すぐ目の前の砂浜に蟹がこんなにいるわけ?
見せてもらった網はまったく大きくない。
「そこらへんでも売ってるよ」とおじさん。

まじっすか!
今度、やってみよう。

サーフィンで海に入るとき、何やらえも言われぬ固いような柔らかいような、不思議な質感の物体を踏む記憶があるが、それは蟹だったのか!?

海から引き上げた網のなかを探ると、蟹がまた2匹入っていた。
それを丁寧に取り出し、おじさんは網を、また海に向かって投げる。
それから数十分、ただ海を眺めながら蟹を待つ。
それを繰り返す。

なんて贅沢な時間の使い方なんだ。


(編集部註:この記事は11月に書かれたものです)

このブログについて
 

東京R不動産のディレクターでもある馬場正尊が、ふとしたきっかけから房総に土地を買い、家を建て、生活を始めるまでのストーリー。資金調達から家の設計、周辺の環境や人々との交流、サーフィンの上達? まで。彼の人生は些細な気づきから、大きくそれていくことになる。馬場家の東京都心と房総海辺の二拠点生活はこうして始まった。
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馬場正尊

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