2008.12.16

ある日、妻が出て行った

馬場正尊
 

前触れはあった。

限界の信号は、ずっと出されていたのかもしれない。

僕らが30歳の春、妻が「離婚届」を、僕の前で静かに開いた。

「ここに名前を書いて」

こういう時、男はまたしても無力である。子どもができて結婚するときも、そして今度も、主導権は常に向こうにある。中目黒の大きめのワンルームに引っ越して来て3年後。とにかく僕らの生活は限界に達してしまった。さすがに、細かいことをここで書く訳にはいかないが(女遊びとかしました、すみません!)、その理由のひとつに、この家のプランがある。そのことは現在、妻とも話し合って、「あの間取りも、よくなかった」という認識で一致している。まあ、全体の20%くらいの要因で、あとはすべて僕が悪いんですけど・・・。

離婚届にサインをさせられた翌日。彼女はさっさと軽トラックを借りて、自分と子どもの荷物を積んで行ってしまった。僕は壊滅的な気持ちで、その引っ越しを手伝った。まるで自分の墓穴を、自分で掘っているようだ。バイバイ、と手を振りながら遠くに走り去っていく軽トラックを、暗澹たる気持ちで見送ったのを、今でも鮮明に覚えている。あのときはつらかった。一方の彼女の気分を数年後に聞いたのだが、中目黒から多摩に向かう高速道路は、まるで新しい生活への滑走路で、荒井由美の「中央フリーウェイ」をいつのまにかに口ずさんでいたらしい。

数日後、家庭裁判所から書類が送られて来た。彼女はものすごい手際の良さで離婚業務を遂行した。決断した女性は強い。改めて思い知った。

このブログについて
 

東京R不動産のディレクターでもある馬場正尊が、ふとしたきっかけから房総に土地を買い、家を建て、生活を始めるまでのストーリー。資金調達から家の設計、周辺の環境や人々との交流、サーフィンの上達? まで。彼の人生は些細な気づきから、大きくそれていくことになる。馬場家の東京都心と房総海辺の二拠点生活はこうして始まった。
房総R不動産トップページへ


著者紹介
 

馬場正尊

カテゴリホーム
コラムカテゴリー
 
特徴 フリーワード
フリーワード検索
関連サービス
 
メールサービス
 
SNS
 
東京R不動産の本
 
PARKnize 公園化する都市 PARKnize 公園化する都市

緑豊かなオープンスペースを街にひらく

明日の風景を探しに 明日の風景を探しに

馬場正尊による思考と記憶の雑想記

公共R不動産のプロジェクトスタディ 公共R不動産の
プロジェクトスタディ

公民連携のしくみとデザイン

CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編 CREATIVE LOCAL
エリアリノベーション海外編

衰退の先のクリエイティブな風景

団地のはなし 〜彼女と団地の8つの物語〜 団地のはなし
〜彼女と団地の8つの物語〜

今を時めく女性たちが描く

エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ エリアリノベーション:
変化の構造とローカライズ

新たなエリア形成手法を探る

PUBLIC DESIGN 新しい公共空間のつくりかた PUBLIC DESIGN
新しい公共空間のつくりかた

資本主義の新しい姿を見つける

[団地を楽しむ教科書] 暮らしと。 [団地を楽しむ教科書]
暮らしと。

求めていた風景がここにあった

全国のR不動産 全国のR不動産:面白く
ローカルに住むためのガイド

住み方も働き方ももっと自由に

RePUBLIC 公共空間のリノベーション RePUBLIC
公共空間のリノベーション

退屈な空間をわくわくする場所に

toolbox 家を編集するために toolbox 家を編集するために

家づくりのアイデアカタログ

団地に住もう! 東京R不動産 団地に住もう! 東京R不動産

団地の今と未来を楽しむヒント

だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル

都市をリノベーション 都市をリノベーション

再生の鍵となる3つの手法

東京R不動産(文庫版) 東京R不動産(文庫版)

物件と人が生み出すストーリー

東京R不動産2 東京R不動産2
(realtokyoestate)

7年分のエピソードを凝縮

「新しい郊外」の家 「新しい郊外」の家
(RELAX REAL ESTATE LIBRARY)

房総の海辺で二拠点居住実験

東京R不動産 東京R不動産

物件と人が生み出すストーリー

POST‐OFFICE―ワークスペース改造計画 POST‐OFFICE―
ワークスペース改造計画

働き方の既成概念を変える本