深夜飛行

2010年8月17日
金曜日の夜9時過ぎに、
「今から沖縄に来ない?」
と突然、友人からのメールが着信した。
「何をふざけたことを・・・」
と、思いながら無視しようとした瞬間、矢継ぎ早に続きのメールが届いた。
「0:20羽田発、スカイマーク」
えっ、そんな便があるのか? 検索してみると確かに存在する。那覇着は2:50、真夜中だ。
羽田が24時間運用になり、こういった時間帯のフライトが可能になったのか。
検索してみるとまだ若干の空席がある。
なんか勢いと、意外な移動手段を発見した微妙なうれしさで、ついチケットを購入してしまった。もう、行くしかない。
事務所を10時に出て東京の部屋によって、いつもの出張とほとんど同じパッキングとカバンでそのまま終電近くのモノレールに飛び乗った。
羽田空港は見たことがないくらい暗く閑散としている。エスカレーターが動いていることだけが、空港が稼働していることをかろうじて示していた。コンコースにも警備員しか見えないが、端っこのように申しわけなさそうにスカイマークの黄色いカウンターが光っている。
確かに、0:20発、那覇行きはあった。
機内では爆睡。離陸の瞬間さえ記憶が曖昧だ。気がつけば着陸態勢に入っていた。
エアコンの効いた空港から外に一歩出ると、そこは沖縄特有の湿った空気が身体を包む。
僕は、この一瞬がけっこう好きだ。どこか別の場所に降り立ったことにちょっと興奮する。
オレンジの光が、その気分を盛り上げてくれる。タクシーをつかまえて、すでに眠った市内へ。
その友人が泊まっている宿にたどりついた。
翌朝、寝不足の目をこすりながら、朝9時発の慶良間諸島行きの高速船に乗り、10時には阿嘉島という小さな島の港に到着。
昨夜からのことにイマイチ現実感が持てないままに、僕は真っ青な海と空と、ガジュマルが日陰をつくる海辺に立っていた。
ほとんど何も持って来ていなかったから、島に2軒ある商店の一つでビーチサンダルと、おもちゃのようで不安が残る水中メガネを購入。それにサッカーパンツをはいて、いざ珊瑚礁と熱帯魚の待つビーチへ。
南浜と書いて、この島ではなぜかみんな「ニシハマ」と呼ぶ。方角がずれているのだ。
テクテクと浜まで歩いている途中、シカに遭遇した。ここには慶良間鹿という野生のシカが生息している。脇の熱帯雨林から道路に出て来てヤツと偶然目があった。何事もなかったように、向かいの林に消えて行った。
丘の上から一気に地形は下り、そこは真っ白なビーチ、人影もまばらで、ビキニのお姉さんもいないので、夏の浜はのどけからまし。自然に集中できる環境もいい。
ここの珊瑚は年々後退し、自然破壊が如実に進んでるのがわかる。こうやって泳いでいる人間がそうしているのだから複雑な思いだ。十数年前にここに来たときは、波打ち際のすぐ近くまで珊瑚が生きていた。今では沖に数十メートル泳いでいかないと見れなくなっている。
とはいえ、沖には透明度の高い海と、そのなかに華やかな色彩の熱帯魚に囲まれる。潜っては海面にプカプカ浮いて、を無心にただ繰り返した。
夕方、陸に上がって海辺の沖縄そば屋で冷えたオリオンビールを飲む。僕は沖縄にいるんだ・・・、不思議な気分だった。
翌日の午後まで島で過ごし、日曜の夕方の便で羽田に戻る。
あわただしいようだが、僕には十分だった。
1日も会社を休まず、心の準備もまったくなく、対外的には空白の、個人的には充実の週末を過ごした。少しヒリヒリする肌が、確かに沖縄に行って来た記憶の証拠になっている。
この深夜飛行は使える。
羽田がハブ化すれば、行き先は沖縄だけでなく北にも海外にも拡張する。
小さな日本を楽しむ、新しい時間の使い方を発見した気分だった。
つうか、今まで国土交通省はなにやってたんだ、やりゃあできるじゃないか。