第70話|ストレスのあまり黒煙ぷすぷす
やっぱり、農家になるなんてむずかしいよなあ。
農作業の労働負担・助っ人の問題、土地の権利関係の諸問題、おかねの問題・・・
せっかく素晴らしい土地を見つけたのに、現実との折り合いがつかずに悶々とする日々が続きます。
タイトな条件に少しでも譲歩の余地がないかと、入手に向けて方々とやりとりする窓口になっていたわたしは
思うようにいかないことだらけでストレスがたまり、そのうち体中からぷすぷすと黒煙がたちのぼりはじめました。
被害者はもちろん、夫。
深夜に疲れて帰ってくる夫をじっとり暗い目で一瞥し、
おかえりなさ〜いのかわりに、いきなり因縁をつける妻になってしまったわたし・・・
「あなた絶対、結婚相手まちがっちゃったのよ。豪農か大地主か大富豪の娘がよかったのよ。
そうすりゃ農家資格も必要ないし、使える土地はうざうざあったはずよ。
今からでも遅くないんだから、もっとあなたにメリットのある相手と再婚すれば??」
「・・・は?おまえ、いきなりどうしたんだ?訳わかんねーぞ」
「だからさあ!なんでわたしなんかと結婚して、土地が欲しいなんていうのよ!
農家の娘でも娶れっていってんのよ!」
「・・・あのなあ、いまさら何いってるの。大変なのは分かるけどさあ、まあ急にそう怒るなよ。
今日は何に困ったの?何がいちばん大変だったの?」
「ぜんぶよぜんぶ。ぜーんぶ大変。わかるでしょ?
全財産つっこんで買っても、自分のものにならないかもしれない土地なのよ。
そしたらただの一文無しよ。そんな土地を買おうとしていること自体、まちがってるのかもしれないじゃない?
わたしのやってること、けっきょく骨折り損のくたびれ儲けに、なりゃあしない?!」
普段はわたしのほうが楽観度が高くて、心配性の夫にボケだのヌケだの言われるのですが、
いろんな不安が一度にどっと押し寄せてきて突然崩壊するわたしを、夫はあたふたとなぐさめてきます。
「いや、おまえもあの土地がとっても欲しいって言ってただろ?だけど、そう思えないならやめてもいいぞ。
俺は仕事があるから日中の交渉事はおまえにまかせっきりになってしまって申し訳ないけど、
仕事のほうを替わってやってもらえるわけじゃないしなあ。しょうがないよなあ。
また、他の物件探すところから、やりなおすのと、どっちが大変かなあ。それでも別にいいけど・・・」
また、また1から、探すのか・・・それも難儀きわまりない。
どっちに行っても苦労ばっかりだ。こんなことだけでわたしの若き日々はむざむざと費やされるのか?
(っていうほど若くもないけどさ。)
