第60話|いよいよ三芳村へ!
お互いが負傷するほどのケンカを一花咲かせたわりには
待ち合わせの時間にさほど遅れず、今回お世話になる不動産屋さん、Cさんの事務所に着きました。
車をとめ、後部座席にすわるにいにに向かって
「いい?パパとママが来るときにケンカした、なんてこと、ぜっっったいに言っちゃダメよ。わかった?」
と念を押し、「うんうんうん」とにいにがうなずくのを確認してから、車を降りました。
時間がたつにつれ、わたしの顔のお岩さん化は進行・・・しゃあない、サングラスをするしかないか。
「どうも・・・は、はじめまして。」
室内でもサングラスの怪しげなわたしは、挙動までおどおどしてしまいます。
「どうもはじめまして。まあまあ、お子さんもご一緒で、遠路ご苦労様ですねえ。」
Cさんは、子供が巣立ったばかりといった年齢の女性で、気さくな笑顔で迎えてくれました。
「今日はね、メールでお問い合わせのあった物件と、もうひとつお見せできますから。
その農地の物件はね、売主さんから鍵をあずかっていますんで、家の中にも入れますよ。」
「家は、すぐにでも使える状態なのですか?」
「ええ、大丈夫だと思いますよ。何しろまだ売主さんが使っていらっしゃるんですから。」
聞けば、売主さんは別のところに住んではいるものの、月に数回は農地管理のために来ているとか。
「あと、わたしたち農家じゃないですけれども、本当に農地を買うことができるんですか?」
「宅地のようにすぐに登記できるってわけにはいかないんですがね、まあ段取り踏めば大丈夫ですよ。
とりあえず細かいことは、土地を見てみてからお話しましょうか。
途中、道幅が狭くなるところがあるから、気をつけてくださいね。」
わたしたちはCさんの事務所を出て、現地に向かいました。
今では南房総市と呼ばれていますが、市町村合併前は「三芳村」といわれていた場所。
今まであまり目にしなかったような広大な田畑がひろがっています。
「こりゃまた、気合いの入った田園風景だなあ。専業農家が多いんだろうな。」
「そうだね、三芳村って有機農法で有名なところらしいしね。ほら、花卉のビニルハウスもあるよ。」
「こういうところにビニルハウスたてたら、きっと植物はよく育つだろうなあ。
高台もいいけど、日当たりのいい広い平野こそ植物栽培地の王道だな、やっぱり。」
どちらかと言うと辺鄙な土地ばかり見てきたわたしたちは、農地としてまっとうに稼働している土地を見て
憧れのような、畏れのようなものを感じました。
「働いている土地」というのは、なんだか立派に見えるものなのです。

ね、圧倒的に美しいですよね。
