第59話|折れてました
いや・・・とか、まったくね・・・とか、意味のないつぶやきだけが聞こえる、しーんとした車内。
そこで、ずっと黙っていたぽちんが突然「ママ、チガ見せて。」と、一言。
わたしは振り返り、「目の下、血がでちゃったね。たいしたことないけどね。」と見せてあげました。
(ぽちんは「血」のことを、「チガ」だと思っているようです。「チガ(=血)でちゃった」)
にいには、「パパー、ママー、とりあえず離婚しないでねー。」と、かすれた声でぼそり。
ぎょぎょっとして「にいに、そんなコトバなんで知ってるの?心配させてごめんねー、大丈夫だよう。」
と笑ってみせると、「よかった♪」とニッコリ。
夫は「おまえたちがいなくなったら、オレは生きていけない。」などと殊勝なことを口走りつつ、なぜか時々
「イテテ・・・」と胸のあたりをおさえています。
ひょっとして、わたしのパンチが効いたのかしら。
「いやあ、自業自得だけど・・・実は肋骨のあたりが・・・。
おまえも痛いだろうけど、オレも痛いから、おあいこでよかったよ。」
と、わけのわからないことを口走りながらほっとしている夫を見ていると、
「わたしの顔をこんなにして・・・DVだわ!」
とでも言ってみようかしらという気持ちがおきるどころか、そんなに痛くないのに謝らせちゃって悪いわ〜という
気持ちさえ、湧き上がってきました。
(実は、夫はわたしより重症を負っていたんです。
鼻をかんでも肋骨のあたりが痛いというので翌日病院でレントゲンをとったら、折れていました。
・・・これじゃあ、わたしのほうがDV妻じゃない!?)
わたしは、生まれて初めて夫婦で殴り合いのケンカをしたことが、何だかとても愉快でした。
土地探しでの鬱積した気持ちや先の見えない不安が、この「爆発」で一気に吹き飛ばされちゃったみたい。
おバカなゲンカをして、肋骨折ったりお岩さんみたいに顔腫らしながらも、「まあ行こうか」と
そのままひょこたら房総に向かってしまうわたしたちの、なんと滑稽なこと!
この滑稽な道中こそが、わたしたちの珍妙な家族像そのものなのかもしれません。
泣いたり笑ったり怒ったり、やんややんやと大騒ぎしながら毎週土地をみてまわるのだって
楽しいといえば楽しいし、幸せといえば幸せで(すごく譲歩していえば、ですが)、
仮にずうっといい土地にめぐり合わなかったとしても、「あのときはおまえのバナナが悪かったよな」
「何いってるの、あなたの口の悪さが原因だったでしょー」なんて言いながらあとで楽しく思い出せるような、
そんな悪くない日々を送っているのかもしれないなあ、と、思ったりしたのでした。
(こういう超楽観的なところが、わたしたち夫婦の共通点だったりします。幸か不幸か。)
