第45話|まぼろし?
Tさんが悪いわけでもないし、っていうか悪いのは明確におばあさんなんだけど、どうにもならなそうです。
「やっぱり・・・この土地は、やめたほうがいいですかね?」
「はい!やめたほうがいいとおもいます。」
きっぱり言い切るTさんの決然とした面持ちに、わたしは思わず吹き出してしまいました。
じゃあ、連れてくるなよー。
でもね、きっとTさんとしては、万に一つでもおばあさんが理解してくれることを期待してたんじゃないかって
思い、いい土地だからって連れて来てくれたんでしょうね。そう思うと、恨む気なんかおきません。
まあでも、今日仮にあのおばあさんが静かにしてたとしても、この土地買って住み始めた後にまた
ドンドンバンバンされちゃあたまりません。
やっぱり、この土地は、ナシですね。
「あのー、ホントすみません。ご要望に叶う土地をご紹介できなくて。また、がんばって探します。
いい土地があったらすぐにご連絡します。」
頭を下げるTさんを見ながら、不動産屋さんも大変な商売だなあとしみじみ思いました。
「Tさん、ご苦労多いお仕事でしょう。」思わずそんな言葉をかけてしまうと、
「まあ・・・いろいろありますけどね。でも、今日ご紹介したような変わった土地の物件が結構ありますし、
自然の中にある土地をまわるのは楽しいですよ。房総で不動産屋をしているのって、僕は楽しいです。」
楽しいと連呼するTさんのメガネがキラキラして、こちらもつられて楽しい気分になってしまいます。
帰り際にちらっと、そのおばあさんの家を覗くと、子供や若い男性など何人かの影が見えました。
ヒトそれぞれの家庭があって、いろんな事情をかかえて生きているんだな。
土地見学の妨害を、理不尽なことだと思って断固戦うべきか、あるいはそっと身を引くか。
今回の場合は後者を選びたくなるような、しんみりとした気持ちになりました。
そりゃあ怒鳴られていい気はしませんでしたけどね。
車の中でこの日の物件見学の総括をいろいろ喋っているとき、夫が
「何だかでも、最後の物件は、まぼろしだったような気がするよな」と一言。
ほんとに・・・。
もうきっと、あのお地蔵様にも、おばあさんにも、逢うことはないでしょう。
Tさんの存在が、かろうじてわたしたちを現実に繋ぎ止めてくれていましたが、今でも思い出すと
あれは夢の中の出来事だったのかな・・・と、不思議な気持ちになるんです。

背面からも和みオーラが
ただよってる♪(かな。)
