第37話|不動産屋さんもいろいろ、買い手もいろいろ
「ママー、ぽちんが泣いてるから戻ってきてー。ママー。」
にいにの遥か彼方からの呼び声にハッと上を見上げると、ざくざく歩くうちにずいぶんと下のほうまで
来てしまったようです。
あわてて引き返しながら、またここを見に来る可能性はどれくらいあるのかな、などと
ちょっと覚めた気持ちになり、見納めのつもりで一度振り返りました。
土地との出会いは、一期一会。2度見に来る土地はそうそうありません。
どんなにお人よしでも「悪くないよね」の土地でぽんと手を打ってしまえるほど能天気ではないし、
やっぱり頭のすみっこにはいつも、前回ダメになった秦野の素晴らしい土地の幻影があるので
このくらいじゃまだまだ納得できねえぜっ・・・と思ってしまいます。
それにね、よく考えると、有料道路からアクセスするってことは、車じゃないと来られないということかしら。
あれれ?そのへんどうなんだろう。
大股で駆け上っていくと、ママ抱っこーとびえびえ泣いているぽちんが待っていました。
「ママがいいの〜。ママがいいの〜」と言いながらぺちゃんとわたしにくっつくぽちんに、
一生懸命抱っこしていた夫は「パパがいるよーって言ったんだけどなー」と憮然としています。
そんなばたばたを遠くで見ていたTさんは、タイミングをみて
「お疲れ様でしたー。じゃ、次の土地にまいりましょうか。」と、にこっと笑って言いました。
あれ?この土地の解説はないのかな?
「はい、よろしいですか」
何の余韻もなく、次の場所の案内図を渡して、さくっと自分の車に乗ってしまうTさん。
・・・ずいぶんあっさりしてるなあ!!
こんな不思議な土地だから、何かセールストークがあるかと思ったんですが、なーんもない。
Tさんは、いろいろ喋ることで土地の好感度を上げようとはしないタイプってことでしょう。
いやあ、まったく、人間というのは勝手な生き物でございまして、
セールストークはビンビン警戒するくせに、(あるいは「さあ!騙されんぞ!」と身構えているからこそ、)
なあんにも売り文句がないとちょっぴり寂しくなったりして。
とはいえ、にこにこしていて飾り気のないTさんの雰囲気に、妙な勘繰りも必要なく安心したことも確かです。
まあとにかく時間もないし、次だ次に行こう、とわたしたちもあわてて車に乗り込みました。
シートベルトをしながら夫は、
「こういう土地を売るってことは、オレらみたいな変わり者が他にも多少いて
たまにとんでもなく辺鄙な土地を買うんだろうな。」
とつぶやきました。
・・・たーしかに!
