第31話|まるでトトロ
・・・・・悪くない土地だな。どう?買いたいと思う?ちょっと遠くから、子供達と夫がごちゃごちゃやっている姿をぼんやり眺めながら、わたしは自問しました。
何が問題?問題はとくになさそうだ。インフラもしっかりしている。道もついている。値段も、そこそこ。もうちょっと値切れば、余力で小さな家だって建てられるだろう。スペックはほぼすべて、満たされている。
「この、細い道をあがっていくと、広いとうもろこし畑に出ますよ。片道5分くらいです。
ボクもおいで。歩けるかな。」
Sさんに誘われて、わたしも土地の南側の細い道をのぼってみることにしました。
車が1台、通れるか通れないかというくらい。道の脇は草木が茂っていて、ちょっとした森のトンネルです。にいには飛ぶように駆け上がっていきます。

「あら、にいに、パパは一緒じゃないの?どこだろう。」わたしはぽちんをだっこして、Sさんと一緒にゆっくりと歩いていると、後ろから、ごろごろごろごろ、と車の音。「帰り道が大変だろうから、上で待ってるね。」と言って、軟弱モノの夫はわたしたちを追い越しました。
ゆるい風が心地よく、ぽちんはわたしの腕の中でゆられて、半目になってダラリ。すごく静かで、平和で、トトロの森を気に入ったサツキとメイのお父さんなら、きっと賛成してくれそうな土地です。
「この近くには、東京ドイツ村というところがあって、そこがうちの家族の遊び場になっているんですよ。年間パスポートも持ってます。帰りに寄ってみてはどうですか。」
Sさんは軽く息を切らしながら言いました。
「へえ、ご結婚していらっしゃるんですね。」
「今3歳の息子がひとりいて、夏に、もうひとり生まれる予定なんです。」
子供がいるようには見えないなあ、若いパパだなあ。なんてちょっと驚きながら、でも子供がいるヒトは楽だな、と妙に安心しました。
「千葉には、今までほとんど来たことなかったんですが、とってもいいところですね。」
「ええ、自分も神奈川の大学を出たんですけど、地元に戻ってきてしまいました。まあ、ぐっと田舎ですからね、房総は。田舎の物件は、ご案内するのも楽しいですよ。お客様もいろんなご要望の方がいらっしゃるし。でも、サボテンが趣味の方は初めてです」
四方山話をしながら坂道をのぼっていくと、にいにがだれかと話し込んでいます。
籠をかついだ、おじいさんとおばあさんです。
「・・・東京から来たんだよ。土地をさがしてるんだよ、うち。パパがサボテンが好きだからさあ。」
にいにはまたいつものクセで、出会いがしらに突然自分のこみいった話をしているようです。
「そうかい。それはたいへんだね。」とおじいさんとおばあさんはよい匂いをさせながらにこにこしています。見ると、籠の中には、摘んだばかりと思われる水仙の花が、いっぱい。
「気を付けてね。上はとうもろこしの畑だよ。まだ実がついてなくて残念だねえ」
ざっくざっくと降りていく、まるでおとぎ話から出てきたようないでたちの2人を見やりながら何だか、どんどんトトロっぽくなっていくなあ、と妙に現実感のない気分になっていきました。
