第28話|アクアラインのファンになりました
神奈川方面から房総方面に検索エリアを方向転換しようと決めてからのわたしたちの行動はとても迅速だったと思います。ガソリンを満タンにし、カメラとまっぷると子供らを積んで、いざ房総に出発したのは「アクアラインの費用対効果」を計算した日からわずか2日後のことでした。
目指すは、袖ヶ浦ICから7キロの物件。
宅地部平坦443坪、山林が151坪で、1780万円という、かなりよさそうな概要だったうえに、
「東南の角地ですので日当りは申し分ありません。西側は山になりますが、崖ではなく緩やかな起伏です。周辺は畑や民家ですので眺望も良いと思います。以前の所有者から聞いたところ、春には山でタケノコが取れるそうです。」
という担当者さんからのメールの内容に感動し、速攻、現地を見せていただきたいと連絡を入れて10時半に現地集合という約束を取りつけたのです。
まったく何の予備知識もないまま、とにかくアクアラインで千葉県にわたるんだというイメージだけをもち、「週末だから、環八は混まないかな」なんていいながら、恐る恐る車を走らせました。
人間とは不思議なもので、慣れている道のりだとたいして時間を感じないものですが、ナビを頼りにふらふらと走る道中は、風景も見慣れず、どうもリラックスできず、妙に長く感じたりします。特に、浮島ICに向かって川崎の工業地帯をトラックたちと一緒に走りながら見る景色は普段目にすることのない、しゅーしゅーもくもく煙の立ちのぼる工場群で、インパクトありあり。
こどもたちなどは「ママー、火事みたい。」と窓の外に釘付けです。ある意味感動的で、産業大国日本の現在を考えさせられる風景なのですが「さあ、田舎に土地を探しにいこう」という気分からはおよそかけ離れたムードであることは確か。
根拠のない不安が胸に広がる中、「アクアラインの入り口はどっちだ?」と目をこらしながら前方を見据えとりあえず運転に集中することに。(助手席のわたしも。)渋滞することもなくスムーズに走り続けていくと、一緒に走っていたかなりの量のトラックたちがいつの間にかそこかしこの工場に吸い込まれていき、やがてほぼ見当たらなくなり、「アクアライン入り口」の標識が増え、あ、もうすぐだね、なんてちょっとワクワク。と思ったら、あっという間に、トンネルの入り口に吸い込まれていきました。
って、思っちゃうわけよ。希望をもつのは自由だもんねー。
「ここからは、東京湾の下にはいりまーす。トンネルで、海の下に、もぐっていくんだよ。」ちょっと後部座席を振り返ってこどもたちに説明してやると、ぼーっとトンネル内の景色(のない景色)を眺めるふたり。
アクアライン初体験なのは、子供だけでなく、夫も、わたしもです。
「長いトンネルだなあ!信じられないよ、海の下にこんなものつくっちゃうなんて。人間ってやっぱり変だ。」
「ほんと、こりゃとんでもない規模の工事だわ。発案した人間も、賛同した人間も、つくっちゃった人間も、ちょっとおかしい。」
などと不届きなことを言いながら、先に光の見えない長大なトンネルの有り様に驚嘆していました。
「海の下ってことはさあ、今このトンネルの上にも横にも魚がいるんだよね。サメもいるかなあ。」と釣り好きで海オタクのにいには何となく愉しげなイメージをもって解釈している様子でしたが、
ちいさなぽちんは「まっくら、こわいのー。だっこー」と情けない声でべそをかいて手をのばしてきました。
制限速度の80キロを守ると、やったら遅く走っているように感じます。
なにしろ、前を見てもバックミラーを見ても、合計2台くらいしか確認できないほどがらがら。なかなかシックで優雅なトンネルドライビングが続きます。・・・しばらく走っているとようやく、ちょっぴりのぼり坂になっている道の前方に出口らしき光が見えてきました。くらーいところに5分以上いたために、目が光を拒絶して、出口に近づくにつれ顔がゆがみます。
「おい、グラサングラサン!目がみえん!」
スーパー鳥目で明暗順応の悪い夫は、泡喰って、顔になすりつけるようにサングラスをかけました。
「まーぶーしーーーーー!!」
トンネルをぬけると、そこは、大海原の上。
水面の反射で世界が白くとんで見えます。あおいうみ。ひろいひろい。(1年の国語の教科書にあったな。)
「やあ、いいねえ。なんかきもちいねえ。」
かもめが空に舞い、さえぎるものの何もない中をまっすぐ走るのは、何と爽快なのでしょう。うーんと開放的な気持ちになって、千葉というよりもどこか遠い南の島に接続されている道を走っているような感じがしてきます。房総に、いい土地がみつかって、いつもこんな気分で通えたらいいな。そんな漠然とした期待がふくらんできました。
「このへんって、あさりはとれるのかなあ。」にいにはオタクなので、ひとり近視眼的な興味に浸ってじいっと遠浅の海をみつめています。
「そうだな、潮干狩りもできるよきっと。ところで、どこのインターでおりればいい?」急に現実的な質問をされて、ハッとすると、恍惚のブリッジドライビングはあっという間に終焉を迎えていて出口案内の緑の標識がいろいろ見えてきています。やばいやばい。物件案内の紙をごそごそ取り出して、地図の苦手なわたしは「うーんとえーと」ともたもたインターを探すのでした。
