第17話|条件ぴったり!夢のような物件に遭遇
忽然と現れた、見事な高台。その真ん中に車をとめて、Kさんとわたしたちは外に出ました。
「ここです。いや、わたしもはじめて来たんですが、こりゃなかなかいいですね。」
わたしたちに先んじてKさんはうわずった声でそう言い、物件案内の書かれた紙と現地をちらちら見比べました。山の南面に沿って長く横たわったような、日当たりのいい平坦地。眼下には整然とした茶畑、遠くのほうに秦野の街がひろがっているのが一望できます。晴れわたった秋空をひとりじめできるような、実に気持ちのいい場所でした。
「うわあ、ひろーい!あ、ゆずがなってるよ!」
車の中ではどろんとしていたにいにも、車からぴょんと降りて解き放たれたように掛け出します。娘のぽちんも、だっこしていたわたしの腕から抜け出して、にいにのあとを追っていきました。
「ここは、実は持ち主がふたりいる土地なんですよ。この、車で入ってきた真ん中の道から左右に分かれていて持ち主が違うんです。売り出しているのは、むかって右のほう。でも、左の土地も、どうやら売り出そうって思っているらしくてね。うまく交渉すればいっぺんに買えると思います。」
「だいたい、何坪くらいすか?」
「ええとねえ、併せてちょうど、500坪くらいですよ。」
わたしは、ああここが、未来のわたしたちの拠点になるんだなあと確信しました。あまりにも出来過ぎていました。ちょうど500坪で、ロケーションといい、地の利といい、条件にぴったり当てはまっています。きれいに手入れされているこの土地は、放置されることなく今でも誰かの手によって愛情を注がれているという雰囲気が漂っていました。
まず、草ぼうぼうではない。一部に芝生がはってあったり、庭木が丁寧に植えられていたりもします。敷地の境界の法面には感じのいい石垣がほどこされていて、その石と石の間には手間かけて植栽もしてあり、それがなかなか味わい深いものになっています。おそらく、ここに家を建てようとしていたんだろうな、という場所の目の前にゆずの木が植わっていてきっと・・・なんかあって、やむをえず手放したんだろうな。ここの持ち主。
と、ちょっとしんみりとした気持ちになるくらい、ヒトのぬくもりが伝わってきました。石垣のむこうがわには茶畑がまた広がっていて(要するに茶畑にはさまれた土地ですね)、その先には深い山林が続いているように見えます。

家はたっていませんが、上屋はふたつ残っていました。ひとつは巨大な現場小屋のような鉄骨の倉庫、もう一つは、いかにも堅牢なのガレージです。敷地の真ん中あたりにあるそのガレージ(上が物見台になっている)の脇には上にのぼる階段がありそこから物見台の上に出ると、その眺望はかなりのもの、いや、絶景と言っても過言ではない!しかも、けっこう広いスペースの物見台で、ここで朝日を眺めたりランチを広げたり夕涼みしたりするすばらしいイメージが、一気にひろがりました。
にいにがわたしと一緒にここにのぼってきて、止める間もなく叫びました。
「おーい!!とちだぞー!ここは、とちだぞー!!」(にいにの中で、「とち」というのは「ふじさん」みたいに特別なものだという解釈でもあるのでしょう。)
ぽちんもわたしの足にしがみつきながら大きな声で「ママあー」と叫んでいます。
Kさんと具体的な話をしている夫に、ちょっとだけ実務をお任せしてわたしは物見台の上から、このひどく感じのいい空間を味わっていました。こどもたちと一緒に「すごいねー」と下を見下ろしながらああここに住みたいと、心から思いました。
この土地を手に入れるために苦労することがあるとしても、たいていのことなら頑張れそうだとも。
