第16話|あこがれの新天地
Kさんの車にくっついて、次の土地を目指してるんるん走るわたしたち。さっきの土地はNGっぽかったけど、次に見学する物件が用意されているというすばらしさ。ネット検索の苦労がウソみたいです。
「やっぱり、足を使って探せばいろんな物件があるのかもしれないなあ。」
「だよねえ。地元の情報は来てみないとわかんないやね。あ、あんなところにも空き地。あれかな。」
「おお、ここにもほったらかしのもったいない土地が。こういうの売ってくれるとありがたいよな」
目にとびこんでくる空き地はすべて買いたくなってしまう、しょーもない夫婦。それだけ土地に飢えていたんですよ。なにしろ東京では夫に末期症状も見られましたから。(旭化成などの陸屋根の建物を見ると「俺にここを使わせてくれ」と涎を垂らしていた夫。パブロフの犬状態です)
市街をぬけて、ちょっとずつ山坂をのぼっていきます。秦野市の盆地の部分はほぼ都市化されていて、工場や住宅地が平らな部分を占拠していて急な山の斜面(つまり扱いにくい土地)になると突然、丹沢の自然の中にとびこんでいくかんじ。窓の外の景色が緑々しくなるにつれて「物件チック」なムードが盛り上がり、不動産屋さんと共に土地をまわっている・・・という現実感がさらに微熱をもった興奮を誘います。

「秋はきのこ採りもできるし、このへんは釣りもできるんじゃないか?贅沢なところだよなあ」
「まだ紅葉には早いけど、色づいてきたらそりゃあきれいよ。ほら、もみじー。」
「にいにやぽちんの友達をよんでも、退屈しないだろ。すぐにこどもだけでどっか行っちゃうようになるよ。」
「でさあ、もっと大きくなったら、うちの別荘くるー?とかいってラ○ホわりにつかったりしてろくでもない!」
「そういうもんだよ。いいじゃん家族それぞれが多目的に使えるセカンドハウスなんて。
ただしぽちんがオトコ連れてくるのは、許さん。その場で野郎を追い返す!門限は30まで8時。」
まだ物件を見てもいないくせに、未来のワタシタチを夢見る愚かでうわついた会話がはずみます。(ま、こういう高揚感があるうちにぱっと見つけた土地を買っちゃうほうが幸せでしたね。今となれば。土地探しも場数を踏みすぎると、ちょっとやそっとじゃ感動しなくなりますから。慣れというのは恐ろしい。)
こどもたちはといえば、後部座席で別に盛り上がりもせず外を眺めながらぼんやり。
あくびまじりに、「・・・ねえ、それで、とちは買ったの?」にいには、親が毎日土地土地土地土地土地がほしいと言っているのを聞いていて今日は、とちを買いに来ている、と認識していたようです。
「まだまだ先よ。これからこれから」
いよいよ、家がまばらになってきて、小さな渓流づたいにうねうねと上る坂が続きました。「マス釣りセンター」なるものの看板が出ていたりして、雰囲気はまさに田舎暮らしにぴったり!道はだんだん細くなり、「まさかここも道が途絶えているんじゃないだろうね」などと笑いながら進んでいくと、見事な茶畑が広がり、さらに急な坂道をのぼった先にある白い塀の中にKさんの車が吸い込まれていきました。
「この、中かな?」
かなり急な坂道になったので、ぐううっとアクセルを踏みその白い塀の中に入っていくと、それはそれは唐突に、広くて明るくてとても人なつこいかんじの空き地が「やあ。ウェルカム」と両手を広げて待っていたんです。
