「新しい郊外」の家 出版記念企画対談「建築家馬場正尊×編集者菅付雅信」
text= 杉浦貴美子

夏の房総。家から数分で海に出る。

なぜ郊外? しかも房総だったんでしょうか。

馬場:
都会での生活に対して、ぼんやりとした不安というか違和感がずっと溜まっていたんですね。そんな気持ちを抱えていた頃、茨城県守谷市に畑を中心とした家を設計する機会があって、その時に積極的に住む郊外を発見した人がいたんです。彼の発想はすごく素直で当たり前のことをやっているんだけど、自分にとっては新鮮で。そのことが今まで感じていたそこはかとない違和感とばちっと符合して、生活する場所は東京だけじゃないかもしれない、と気がついたんです。かといって仕事もあるから、完全に離れることもできないし、と考えて、「そうか、両方手にすればいいんだ!」と。
それがちょうど「リラックス不動産」を始めた頃ですね。そして湘南に行って値段の高さに愕然とするなか、房総に出会ったんです。あれ? 東京から1時間ちょっとでこんな場所があったんだ、もしかしたら僕が「新しい郊外」と概念的に感じていたところのすごく強いプロトタイプはここなんじゃないか、と思ったんです。


2006年に設計した「郊外の小さな農家」。 

房総の海を定点観測。のんびりしてます。

書名: 「新しい郊外」の家 馬場正尊 (著)
編集: 菅付雅信
アートディレクション: グルーヴィジョンズ
出版社: 太田出版 定価: 1480円(税別)
ISBN: 978-4-7783-1154-4

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菅付:
情報インフラの整った今、特に頭脳労働の人にとっては、ほとんどのことがネットでやりとりできてしまうので、意味のある集い以外は都心にいる必要なんてないんですよ。
あとは、都心の高層ビルはヒューマンスケールから離れ過ぎて、落ち着かなくなってしまったことがあるかなと。やっぱり住み心地の基本はあまり変わらなくて、ヒューマンスケールから離れたものって、エンターテインメントとかアトラクションとしては面白いのかもしれないけど、実際にリアルライフとしてはあまり居心地がよくないのではないかという気がするんです。

馬場:
都市って近代の産物ですよね。頭で作られた世界、脳化していますね完全に。便利だし距離も近いし、合理的ですよ。でも合理的なものが正しいというのは近代が作った概念であって、その帰着点というか限界を見てしまった気がする。なんか腑に落ちないところがあったんだけど、やっぱり違うよねという感じが、昨年の金融ショックあたりから一気に露呈してしまった。
そこでもう一回、身体に聞くというか、脳だけではなく身体で考えてみると、都市でばかり生活しているということの限界みたいなものを感じて。 身体に素直になると郊外という選択肢は自動的に浮かび上がってくると思うんです。


「新しい郊外」の可能性って?

馬場:
いろんな人に「新しい郊外」=「積極的に目的意識を持って住む郊外」という場所の存在に気がついて欲しかった。僕が、気がついてはっとしたのと同じように。僕にとっては「新しい郊外」で生活することが、様々なことを解決してくれるような気がしたんですね。
そしてこの気づきは「郊外」=「サバービア(suburbia)」という言葉が持っている独特の重たさ、暗さ、ネガティブさを反転できる、もしくは価値の読み替えができるのではないか、と思えてきたんです。

菅付:
郊外をアップデートみたいな感じですよね。

馬場:
そうですね、東京という都市を、その内部からだけ見るのではなくて、周縁も含めてもっと拡張して眺めてみると、もっと魅力的な使い方、楽しみ方が見えてくる。それもまた、もう一つの東京の姿だと思うんです。