「新しい郊外」の家 出版記念企画対談「建築家馬場正尊×編集者菅付雅信」
text= 杉浦貴美子

房総の馬場家。デザインも見積もガラス張り?! (写真:DAICI ANO)

馬場家のことやお金のこと、こんなに「正直」に書いてしまって大丈夫ですか?

菅付:
馬場さんと異常なまでに素直で正直な本を作ろうと決めていて。ここまで建築家が自分の半生を恥部まで赤裸々に語ったことはないと思います。頼んだのは僕ですが本当にいいんですかって思うくらい(笑)。許容した奥さんも素晴らしい。
あとお金のことが全部書いてあります。よく建築関係の本を読んでいると「言いたいことはよく分かる。で、いくらなの?」って思う。建築本がふわふわしているのはお金のことが書いてない、だから普通の消費者には参考にならないんですよ。

馬場:
今まで建築家が曖昧にしてきたことを、全部ありのままに書いてしまおう、と思ったんです。
それと同時に、郊外と都心を住み分けることが特別なことではなくて普通のことなんだ、と言いたかった。建築家が土地を買って別荘を建てて、二つも家を持って、ってなんだかすごいことのように思ってしまう。でも本当はリアルな夢というか、いや夢ですらなくて、合理的に金額を比較したら実現可能な訳です。都心のタワーマンションの下階の一室を買っても、6000万とか平気でするんですよ。計算すると月々のローンは30万位で、僕の場合は、房総の家のローンと都心のマンションの賃料を足しても25万です。僕にとってはタワーマンションの方がリアルに感じられなかった。というか、小さな設計事務所を経営している身では、そもそもそんな額のローンは組めませんから。だから、房総と東京、両方で暮らすことの金銭的なリアリティも証明したかったんです。ちゃんと借金もして。それを伝えるためには、全部書くより他なかったんです。


房総の馬場家の平面図。

本には見積書がそのまま掲載されてます。

東京R不動産のディレクターであり、『「新しい郊外」の家』の著者、馬場正尊。雑誌『A』編集長を経て、2003年、建築デザイン事務所Open Aを設立。現在、設計活動、都市計画、執筆などを行う。  OpenA http://www.open-a.co.jp/

菅付:
馬場さんは方法論を提示している建築家だと思うんですよね。手の内を明かしているから使っていいよって、新しくみんなが使える言語を示している。 すごく等身大だと思うんですよ。理論ありきではなくて、ちゃんと地に足が着いた生活者の目線がある。事務所をどこに作るか、どこでどう住むか、今日明日の事ですよね。そこがリアリティを感じるところなんです。

馬場:
まあ、それが僕の建築分野の中における役割のひとつだと思っているんで。あまりカッコよくないけど(笑)。


家を建てること、ローンを組むこと、なんだか難しいことのように感じていたのですが...

馬場:
僕が具体的な設計活動を始めたのは結構遅いんですが、それまでは設計って難しいことだと思っていたんです。けれども実際はたいしたことではなくて、一つ一つの部材の組み合わせなんですね。結局今の世の中、ほとんどの物が既製品の集合体でしかない、設計をやってみてそれがよく分かった。房総の家でも既製品じゃないのは基礎と鉄骨で、それ以外は買ってきて組み合わせているだけなんです。特別な豪邸ではない僕らの経済感覚で住めるような庶民の家は、本当は単純なんだ、という感覚が読んでいる人に伝わればいいな、と。
あとローンに関しても、サラリーマンなら簡単なことだけど、フリーの立場からは難点がたくさんあって。ただポイントがあって、どこをどう押さえればうまく組めるのか、ということが分かってきた。こればかりは、経験して、いろんな壁に当たって、初めて分かりました。
そうして自分を実験台にしながら検証したことを書いたので、参考にしてもらえたら。

菅付:
この4ページもの見積書は、かなりインパクトありますよね。

馬場:
僕は仕事上よく見ているから新鮮じゃないので、これが面白いのか、と不思議な感覚ですが。この見積書は数字もそのまま、まるごとコピーです。施工会社の住所まで載っちゃっています(笑)。
僕らのような職業の人は時代の実験台ですよね。それをやることにしかアイデンティティがない。とりあえず自分を被験者にするということにリアリティを感じるし、早いし、なんせ楽しいですよね、実は。