パン屋タルマーリー

text / photo = 大我さやか(Open A)

一家で移住しパンをつくる渡邉さん一家

農のあるパン屋タルマーリー 1家4人の田舎暮らし生活

いすみの山奥に、人の絶えないパン屋がある。タルマーリーという自家製酵母のパン屋だ。最近はメディアによく取り上げられ、遠方からも客が訪れ、たくさんのパンを焼き続ける忙しさだ。

ここがオープンしたのは3年前。こんなに評判でこだわりのパン屋なので、さぞかしパンに相当な思い入れがあるのかと思いきや、パン屋になったきっかけはひょんなことだった。
2人とも大学農学部を卒業。就職した農産物卸売会社で知り合った渡邉夫婦は、お互い"将来は田舎で食の仕事をしたい"という思いで意気投合。結婚して田舎暮らしの夢を実現するため、2人とも会社を出た。
既に31歳、これから何か技術を身につけるなら・・・旦那さんは悩んだあげく、「パンやるわ。」と突然言い出した。亡き祖父が夢に出てきて、「お前はパン屋をやれ」とお告げがあったらしい。

そんなきっかけで、カフェを開きたいと夢見る奥さんも、旦那の直感を信じてパン屋を目指すことに決めた。結婚してすぐ、都内のパン屋で修業の日々。朝2時からパンをつくり続ける過酷な生活だった。
そして修業を始めて4年経った頃、旦那さんが突然、"引っ越すなら今だ!"と言い出した。麻里子さんはそんな旦那さんに付き合って(振り回されて?)、1年後に房総に移住することになる。

まずは物件探しから...といっても突然よそ者がやって来て"いい物件を紹介してくれ"といってもなかなかみつからない。結婚当初から、"房総でパン屋を開く!"と決め、地元の人々とのネットワークをつくる努力をした。タルマーリーのすぐ近くにある「ブラウンズ・フィールド」の中島デコさんや、御宿の「幸七そば」や「愚為庵」の店主にも声をかけていた。そしていよいよ、1歳の小さな子どもを抱え、この家族は本気で移住してきたのか?!ということで、早速地元の人々が物件をいくつかの紹介してくれて、今の古民家を借りられることになった。

最初は廃墟のような民家のゴミの片付けから始めて、改修してやっと開業に至った。いざ店を開くと、評判が評判を呼び、せっかく田舎に越してきたのに慌ただしい毎日だ。

おじいさんのお告げがなければ、今いすみでこんな美味しいパンに出会えることはなかったかもしれない。パン屋を開いて2年目には二人目の子も誕生。
赤い屋根の古民家でパンをつくる一家4人のドタバタ生活はまだまだ始まったばかり。


パン工房の横にあるアットホームな店内

大人気のパンはすぐに売り切れてしまう

奥さんの麻里子さんと長女のモコちゃん